事例紹介

不動産2023.05.15.2023年4月1日施行の改正民法について(相隣関係規定)

はじめに

2023年4月から民法が改正されます。
今回の改正は、近年問題となっている所有者不明土地の問題の解決や土地利用の円滑化を目的として、不動産登記法等の改正とともに行われました。

本稿では改正民法の相隣関係規定にスポットを当て、解説をしていきます。

相隣関係とは何か

まず相隣関係とは、「隣り合う土地を所有する者同士が、自分が所有する土地を利用しやすいよう調整し合う関係」のことです。
そして相隣関係規定は、隣り合う土地の利用を調節するために定められた民法上の規定です。
今回の改正では、隣地が所有者不明土地等である場合を想定した見直しが行われました。改正されたのは主に以下の3点です。

①隣地使用権の見直し

隣地使用権とは、民法で定められた一定の場合(例:所有する土地にある建物の外壁工事のために一時的に隣地に入る場合など)に、隣地の使用を請求することができる権利のことです。
いままでの民法では「境界又はその付近において障壁又は建物を建造し又は修繕するため必要な範囲」に限り、隣地使用権が認められていました。
また、隣地使用権を行使する方法も具体的に定められていませんでした。
そこで今回の改正で、隣地使用権の範囲が拡大され、以下の場合に隣地を使用することが認められました。(民法209条1項)

・境界線付近において、建物などを築造・収去(※取り去ること)・修繕する場合

・土地の境界標(土地の境界を示すための目印)の調査・境界に関する測量をする場合

・隣地の枝が自分の土地に越境してきている際に、民法233条3項の規定によりその枝を切除する場合

なお隣地使用権を行使する際は、隣地の所有者・隣地を現在使用する者のために損害が最も少ないものを選ばなければなりません。(民法209条2項)

また、隣地を使用する際は、あらかじめ、その目的・日時・場所・方法を隣地所有者・隣地を現在使用する者に通知しなければなりません。(民法209条3項本文)

通知から使用までには、相手方が準備をするに足りる合理的な期間(個別事案によるが通常2週間程度)を置く必要があります。
ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、隣地の使用を開始した後、遅滞なく通知すればよいこととなっています。(民法209条3項ただし書)

なお、隣地使用に伴って隣地所有者や隣地使用者に損害が生じた場合には償金を支払う必要があります。(民法209条4項)

②ライフラインを自己の土地に引き込むための設備を隣地に設置する権利の明確化

電気・ガス・水道などのライフライン設備を自分の土地で使用するために、他人の土地や設備などを利用しなければならないことがあります。
しかしいままでの民法では、排水のための低地の通水(旧民法220条)等の規定はありましたが、電気などの現代的なライフラインの設置に関しては明確化されていませんでした。
そこで今回の改正で、電気・ガス・水道などの現代的なライフラインを念頭に、以下2つの権利が明確化されました。(民法213条の2第1項)

・必要な範囲で他の土地にライフライン設備を設置する権利

・他人が所有するライフラインの設備等を使用する権利

これらは、他の土地に設備を設置したり他の土地の設備を使用したりしなければ、電気・ガス・水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができない、または引き込むことができない場合に認められます。
対象となる設備は、電気・ガス・水道水・これらに類する継続的給付に必要な設備で、下水道の利用なども該当します。

ライフライン設備の設置・使用の場所及び方法については、他の土地又は他人が所有する設備のために損害が最も少ないものを選ばなければなりません。(民法213条の2第2項)

また、ライフライン設備設置権・使用権を行使するときには、あらかじめ、その目的、場所及びその方法を他の土地の所有者及び他の土地を使用しているものに通知しなければなりません。(民法213条の2第3項)

通知からライフライン設備設置・使用までには、通知の相手方が、その目的・場所・方法に鑑みて設備設置・使用権の行使に対する準備をするために必要な合理的な期間(事案によるが通常2週間~1か月程度)を置く必要があります。なお、土地所有者の所在が不明の場合は、公示の方法による通知(民法98条)が必要になります。

なお、土地の所有者がライフライン設備設置・使用権に基づき、他の土地等に設備を設置・接続する場合には、償金・費用を支払う必要があります。

③隣地が所有者不明土地である等の場合に越境した枝の切除を自らできる権利を創設

いままでの民法では、隣地の竹木の枝が越境してきた場合に自ら切除することができず、越境した竹木の所有者に切除させる必要がありました。
しかし、隣地所有者が切除に非協力的な場合や隣地が所有者不明土地の場合など、隣地所有者に切除させることが非常に困難であることが問題となっていました。
そこで今回の改正で、以下の場合には、越境された土地の所有者が越境した枝を自ら切除することができるようになりました。(民法233条3項)

・ 竹木の所有者が催告後相当期間(事案によるが通常2週間程度)に切除しないとき

・ 竹木の所有者を知ることができず、又は所在を知ることができないとき

・ 急迫の事情があるとき

また、隣地の竹木が数人の共有であったとき、各共有者は、他の共有者の同意等を得ることなく単独でその枝を切り取ることができることとなりました。(民法233条2項)

これにより、竹木が越境してきて困っている土地の所有者は、竹木の共有者の1人から承諾を得れば、その共有者に代わって枝を切り取ることができます。
また、承諾を得られない場合でも、竹木の共有者の1人に対しその枝の切除を求める裁判を提起し、その切除を命ずる判決を得れば、代替執行(民事執行法171条1項、4項)が可能となります。

おわりに

以上、相隣関係規定について簡単にご説明しました。
今までよりも少し柔軟になったように思われますが、例えば隣の家から少し伸びてきた庭木を問答無用でバサバサ切っていいというわけではないので、十分にご注意ください。
隣地関係でお困りの際は、まず専門家にご相談されることをお勧めします。

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司法書士法人・土地家屋調査士法人・行政書士 神楽坂法務合同事務所
代表 庄田 和樹
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