事例紹介

事例紹介2020.07.29.公証人に聞く相続法の改正後の実態(第三回目)

今回も前回に引き続き、公証人に聞く相続法の改正後の実態、第3回をお送りします。
今回は、遺留分制度の見直しについてです。

 

過去の記事はこちら。

第1回 配偶者居住権について

第2回 預貯金払戻し制度の創設

新しい遺留分制度

旧法では、遺留分減殺請求の行使によって不動産の共有状態が生じていました。

改正後は、遺留分を侵害された人は、遺贈や贈与を受けた人に対して、遺留分侵害に相当する金額の請求をすることができるようになります。

また、遺贈や贈与を受けた人が、金銭を直ちに準備することができない場合には、裁判所に対して、支払期限の猶予を求めることが可能になりました。

具体例 

簡単な例で見てみましょう。

被相続人の財産は、1億円相当の自宅の土地建物と預金2,000万円です。相続人は、長男と長女の2名。

遺言書では、長男に1億円相当の自宅、長女には預金2,000万円の分配です。

 長女の遺留分侵害額は、1億2,000万円×1/2×1/2 ― 2,000万円 = 1,000万円となります。

そこで長女は、長男に対して、この1,000万円の遺留分減殺請求をする訳です。

遺留分減殺請求の行使によって、自宅の土地建物は、長男と長女の共有状態になってしまいます。

その持分割合は、長男が 9,000万/1億、つまり9/10で、長女が1,000万/1億、つまり1/10 です。

 このように、旧法では、遺言書に「自宅を全部長男に相続させる」と書かれていても、遺留分減殺請求が長女から長男にされれば、不動産は長男の単独所有ではなく、長男と長女の共有状態となってしまっていました。
このような共有状態を解消し、長男の単独所有を可能とするために改正されたのです。

 

 

すなわち改正法では、遺留分減殺請求権の行使がされても、自宅は長男の単独所有となり、「共有関係が当然に生ずることを回避」することができるようになったのです。
また、このことは、遺贈や贈与の目的財産を受遺者に与えたいという「遺言者の意思を尊重」することにもなるのです。

結果として、改正後は、遺留分減殺請求によって生じる権利は、「金銭債権」となります。
従って、上記の事例では、長女は長男に対して、1,000万円の金銭請求ができるのです。

実際には

ただ、実際にこの遺留分減殺請求自体をするケースはまだ少ないようです。なぜなら、遺言書を作成する段階で、遺留分侵害の遺言書作成にはかなり気を使い、
たとえ遺留分侵害となるような遺言書でも、事前に遺留分を侵害される相続人の了解を得ておくなど、十分配慮し、公証人や専門家のアドバイスを受けた上で、遺言書を作成しているケースが多いからのようです。

次回は最終回「特別の寄与の制度の創設について」をお届けします。

文責:鈴木

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