事例紹介

事例紹介2020.05.1.公証人に聞く相続法の改正後の実態(第一回目)

公証人に聞く相続法の改正後の実態(第一回目)

 

民法には、人が死亡した場合に、その人(被相続人)の財産がどのように承継されるかなどについての

基本的なルールが定められています。その部分は「相続法」などと呼ばれています。

今から2年前の、平成30年(2018年)7月に、相続法制の見直しを内容とする

「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と、法務局において遺言書を保管するサービスを行うこと等を

内容とする「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立し、改正法の規定は段階的に施行されてきました。

ここでは、第4回にわたり改正点のいくつかについて、改正法の施行後、実務でどのような影響があったのか、

なかったのか、その内容について、以下、公証人に実態のヒアリング調査をした結果や銀行の対応も踏まえて、考えてみたいと思います。

新設された、【配偶者居住権(配偶者短期居住権を含む)】について。

 

ご承知のとおり、改正法の規定は、それぞれ段階的に施行されていますが、

この配偶者居住権については、2020年4月1日から施行されています。

簡単な例で見てみましょう。

 

被相続人(亡き夫)の財産が、自宅2,000万円と銀行預金3,000万円であったとします。

相続人は、妻と長男の2人です。相続財産5,000万円は、妻と長男が半分づつ相続するものとします。

妻が自宅2,000万円全部と預金500万円を受取るとしましょう。計2,500万円です。

他方、長男の受取り分は預金2,500万円です。

旧法では、妻は、「住む場所(自宅)はあるけど、生活費が500万円だと、不足しそうで不安になる。」

といったことが考えられました。

新法では、この点、自宅2,000万円の配分を2つに分けて、妻への配偶者居住権(1,000万円)と

長男への負担付き所有権(1,000万円)と考えるようにしたのです。

つまり、妻の取り分は、配偶者居住権(1,000万円)と預貯金1,500万円の合計2,500万円となり、

妻は「住む場所もあって、生活費もあるので、生活が安心ね。」と思えるのです。

他方、長男は自宅の負担付き所有権(1,000万円)と預貯金1,500万円の合計2,500万円となります。

ある公証役場の公証人に聞いた限りでは、「まだこの配偶者居住権を遺言書に書く人は今のところいない」とのことです。

またその相談も、「今のところはまだない」とのことでした。

あくまでも、一人の公証人の考えとしてという前置きをされた上で、こう仰いました。

「例えば、遺言書で、自宅を長男に全部あげて配偶者居住権をウンヌンするより、自宅は妻に全部あげて、

かつ妻にも生活資金を十分残すようアドバイスをした方がいいのではないか、どうせ自宅は最終的に長男に行くのだから。

ただ、実際は、本人達の意向もある事ですし、ケースバイケースで考えて行く事になるでしょう。」とのことでした。

また、配偶者居住権が設定された居住建物の固定資産税は誰が負担するのかが問題となります。

固定資産税の納税義務者は、原則として固定資産の所有者とされており、配偶者居住権が設定されている場合であっても、

居住建物の所有者が納税義務者になるものと考えられます。税務署が不動産に課税する場合は、基本的に名義課税で行なうからです。

つまりその不動産の名義が誰になっているかを見ているのです。

もっとも、改正法においては、居住建物の通常の必要費は配偶者が負担することとされています。

固定資産税は通常の必要費に該当すると考えられます。従って、居住建物の所有者は、固定資産税を納付した場合は、

母親に対して求償することができると考えられます。ただ、親子でもありますし、実際に求償するかどうかは別問題でしょう。

以上今回は、公証人に聞く【配偶者居住権(配偶者短期居住権を含む)】についてを、記述しました。

次回、第2回目は【預貯金の払い戻しの制度の創設】について、記述致します。

 

文責:鈴木

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