事例紹介

商業登記2022.10.3.登記に必要な部分だけコピーした議事録を提出し議事録の原本を還付してくれるのか?

はじめに

登記申請の際には、登記申請書の他、添付書類の提出が必要です。

登記する内容により、提出しなければならない添付書類も様々です。

各種議事録の提出

例えば、株主総会の決議により、株式会社の登記事項に変更があった場合は、株主総会議事録が添付書類となり、取締役会の決議により株式会社の登記事項に変更があった場合は、取締役会議事録が添付書類となります。

 

株式会社は、その株主総会や取締役会おいて登記に関する事項以外にも、様々な事項を決議します。決議する事項の中には、内密にしたい事項も含まれている場合もあり、特に、取締役会の決議事項の中には、企業秘密などの外部に公にしたくない事項も決議されることも少なくないかと存じます。

決議事項の部分のみの提出は?

では、株主総会議事録や取締役会議事録に関して、決議した事項の中で、公にしたくない決議事項の記載を省略し、登記の申請に関係がある決議事項の部分のみを記載した議事録を作成し、法務局にその省略した内容の議事録を原本として添付して登記申請することは可能なのでしょうか。

 

結論から申し上げますと、株主総会議事録や取締役会議事録に関して、決議した事項の中で、公にしたくない決議事項の記載を省略し、登記の申請に関係がある決議事項の部分のみを記載した議事録を作成することは、法律上認められておりません。

議事録の作成には法律上、細かいルールがあり、そのルールにおいて、公にしたくない決議事項は記載を省略してよいといった例外的なルールがないためです。
したがって、株主総会議事録にせよ、取締役会議事録にせよ、決議した全ての事項を記載した議事録の作成が必要となり、その原本の提出が必要です。

 

議事録原本のコピーを見られてしまう?

実務上、議事録の原本とあわせてそのコピーも提出し議事録の原本を還付する手続きを行います。この議事録の原本を還付する手続きは、法務局の登記官が審査の際に、議事録の原本とそのコピーを確認すると登記完了後に議事録の原本を返却してもらえる手続きです。
この議事録の原本のコピーは、登記申請書とともに法律で定められた一定の期間、法務局で保管されます。

ここで留意すべき点があります。それは、利害関係人が、登記の申請時に提出した議事録の原本のコピーを閲覧することができてしまう点です。
平成28年の関係法令の改正により申請書の書類の閲覧をするためには、以前より、厳格な要件が必要になりましたが、要件を満たした場合は、利害関係人に閲覧されてしまうリスクは少なからず生じるということです。

リスク回避の方法とは?

では、今回の本題ですが、登記の申請の際に、議事録に関して、公にしたくない決議事項も記載された議事録の原本は、法務局に提出するとしても、この時に、公にしたくない決議事項の部分をコピーせず、登記に必要な部分だけのコピーを提出し、公にしたくない決議事項等全て記載された議事録の原本を還付してもらうことが出来るのでしょうか。

 

こちらも結論から申し上げますと、可能です(昭和52年11月4日 法務省民四第5546号 民事局第四課長回答)。この方法であれば、議事録の原本は還付され、公にしたくない決議事項が省略された議事録のコピーが法務局に保管されることになり、閲覧のリスク等を避けることができます。

 

実際に、ご依頼頂いた会社様から要望があり、上記の先例に基づき、何件か対応したことがありますが、はっきり申し上げて、『登記に必要な部分だけコピー』と言いましても、どこをコピーすべきか、コピーすべきでないかについては‘コツ’がいります。
ケースバイケースで対応が必要になるため、知識と経験がないとこの判断は難しいのが実情です。

 

昨今は、会社の法務部が登記申請書を作成し、登記の申請を自社で行っていることが多いかもしれません。しかし、上記の先例をご存知の会社の担当者は少ないかと存じます。
この点からも登記は専門家である司法書士に依頼することをお勧めします。情報管理が重要視される今の時代だからこそ万が一の場合に備え、情報漏洩のリスク管理も大事なことだと考えます。

 

公にしたくない決議事項が記載された議事録のコピーを法務局に提出したくないというお客様はお気軽にご相談ください。

 

<参考文献> 
登記研究 361号 77頁 

(文責:佐々木)

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