相続・遺言2016.10.7.遺言書はなぜ普及しないのか
遺言書はなぜ普及しないのでしょうか。
日本公証人連合会の統計によると、公正証書遺言作成件数は、平成元年は約41、000件、平成10年は約55,000件、平成20年は約76,000件、平成26年は約104,000件となっており、平成元年からの26年で約2.5倍増えています。平成27年1月には相続税が改正したことにより、遺言に対しての関心もますます高まっているように思われます。
それでも平成26年度に関していえば、死亡届件数が約127万人に対して作成件数が10万人なので、(作成時と死亡時は異なるので単純には比較できませんが)作成割合としてはまだまだ少ないように思います。
作成しない理由として、以下の点があるのではないでしょうか
「遺言書を書くほどの財産はない」
「法律どおりに分けてもらえればいい」
「家族の仲がいいので問題は起きない」
「早くから遺言書を書くのは縁起が悪い」
しかし、これらの理由には、それぞれ誤解が含まれています。
1.「遺言書をかくほどの財産はない」
死ぬ時に財産をちょうどゼロにできる人はいません。多かれ少なかれ財産は残されます。そして、財産が少なければ遺産問題は生じない、ということはないのです。
家庭裁判所の調停事件は1000万円以下が全体の約32%、5000万円以下が全体の約75%です。一般的な家庭であれば当てはまる範囲だと思います。
2.「法律どおりに分けてもらえばいい」
民法は、各相続人の相続割合(法定相続分)は定めていますが(民法900条)、具体的な遺産分割(遺産わけ)については、「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」(民法906条)という一般的な指針を定めるのみです。
そして、相続人が「一切の事情を考慮して」話し合った結果であれば、たとえそれが法定相続分とはまったく異なる割合となってもかまわない、というのが法の考え方です。
つまり、具体的な遺産分けの仕方については、法は相続人に丸投げをしているのです。「法律どおりに分けてもらえばいい」と言っても、その法律が具体的な分け方までは規定していないのです。なぜならば、具体的な遺産分割(遺産わけ)について、国家が事前に判断できるような客観的な基準というものは存在しないからです。
3.「家族の仲がよいので問題は起きない」
現実に相続争い・遺産争いで悲惨な状態になっているのは、最初から仲の悪かった家族だけではありません。本来は仲がよかった家族であっても、その中を引き裂く結果となるのが相続問題なのです。
相続問題は、「どちらか一方が悪い」あるいは「どちらが一方が正しい」という問題ではなく、双方ともにそれなりの言い分があることが多いのです。
このように、単純に善悪の問題ではない分、仲のいい家族の間でも問題になることがあり、一旦問題になると解決が難しくなるのです。
4.「早くから遺言書を書くのは縁起が悪い」
普段、たいていの人は死を意識して暮らしていることはないと思いますので、自分が死ぬことに備えることがなんだか遺書を書いているかのようで縁起が悪いと感じるのではないでしょうか。遺言書が効力を生じるのは遺言者が死亡した時以降なので、早くからそれを用意するというのは縁起が悪いと感じるかもしれません。
しかし、たとえば生命保険についていえば、若くて健康なうちからそれほど抵抗なく契約をしているのではないでしょうか。遺言書も生命保険も、残された遺族の利益のためという点では同じです。また、それによって、遺族だけでなく遺言者本人も「安心」という利益を得ることができるという点でも同じなのです。
むしろ、自分自身が現に有する財産の問題であるという点で、遺言のほうがより基本的なものであるとすら言えるでしょう。「縁起が悪い」と言って遺言書を書かないということは、「縁起が悪い」と言って生命保険に入らないというのと同じことです。
さらに言えば、生命保険の場合とは異なり、遺言書の場合には、毎月保険料を支払わなければならないというような経済的負担は生じません。その意味でも、遺言書を書くということは、生命保険への加入よりもさらに、誰もが容易にできる家族への配慮であり、かつ、自らの安心材料なのです。
遺言書作成は単に財産の分け方を記載するのみならず、付言事項といって被相続人の気持ちを記すことも可能です。
少なくとも、相続の実務では遺言書さえあれば、こんな問題や揉め事は起きなかっただろう、というケースはよくあります。いざという時が突然来る前にみなさんも一度検討してみてはいかがでしょうか。
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