事例紹介2017.05.26.公正証書遺言について
遺言書には様々な種類があります。
その中でも一番有効性が確実で、遺言書を作成するにあたり専門家がおすすめしているのが公正証書遺言です。
公証人に認証してもらい、原本を公証役場で保管してもらう制度なので、有効性を争われることがほとんどないのです。
では、この公正証書遺言にはどの程度の拘束力があるのでしょうか。
以下の事例を見てみましょう。
とある東京の下町に住む、仲の良い甲野家がありました。
7年前に他界した妻、妻の死後はすっかり元気を無くし要介護レベル4の父である父郎、
そんな父を文句も言わずに甲斐甲斐しく同居しながら介護してきた長男の長郎、
仕事の都合で大阪に転勤した二男の次郎。
男3人で口数は少なかったものの、家族仲は良好でした。
時は流れ、父郎が天寿を全うし、長郎は葬儀やら保険関係の手続きやらを乗り越え、ふっと一息ついたところでした。
見慣れない一通の書類が出てきました。
公正証書遺言 「遺言書 遺言者 甲野父郎は 全財産を、あしなが育英会に遺贈する。
遺言執行者には、長男 甲野長郎 を指定する。 以上」
長郎 「チーーン………。」
どうでしょう。父の死後にこんな物騒なものが出てきたら。
長郎も、父の遺産目当てに介護していた訳ではありませんが、これではあまりにも報われません。
では、どの様な対処法があるでしょうか。
長郎の視点①遺産分割協議をしなおす。
長郎 「遺産全部を寄付してしまうなんて、あんまりだよ…。よし、次郎に相談しよう。」
例え、公正証書を作成してあったとしても、相続人全員で再協議することは可能です(さいたま地方裁判所平成14年2月7日判決等)。相続人全員の同意を得られるのであれば、相続人間で納得のいく形に再協議しましょう。
長郎の視点②遺留分減殺請求をする。
長郎 「こんな遺言が出てきたんだよ。おまえもこれはやり過ぎだと思うだろ?」
次郎 「俺は金もあるし、父さんの意思を尊重するよ。」
長郎 「チーーン………。」
安心してください。例え相続人間で協議が調わなかったとしても、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人には遺留分という最低限相続できる財産があります(民法1028条)。
遺留分は相続のケースにより異なりますが、本事例では相続財産に占める遺留分の割合が2分の1で、さらに法定相続分2分の1を掛け合わせた、4分の1が長郎の個別的遺留分となります。
原則的には、遺贈があったことを知った日から1年間が消滅時効期間とされているので(民法1042条)、速やかに遺留分減殺請求を行うようにしましょう。
このように、例え公正証書遺言を作成していても、必ずしも遺言通りに遺言執行がされるとは限らないのです。
では、父郎はどのようにすれば確実に遺言執行できたのでしょうか。
父郎の視点①遺言執行者を指定する。
父郎 「うちの息子らは優しくていい子達なんだが、如何せん浪費癖がすごくて、お金を持たせるとすぐに使ってしまうんだよ。ここは世のため人のため、私の財産は寄付してしまおう。」
そうは言っても、天から降ってくるであろうと期待していた財産が手に入らなくなってしまうというのは、納得が行かないことでしょう。今回のケースでは、遺言執行者として、本来受けるはずの相続財産を失ってしまう長郎が指定してあります。
どれだけ長郎が善人であっても、中々この通りに遺言執行する気持ちにはならないでしょう。
ここでは、信頼のおける第三者を遺言執行者として指定しておくべきでした。第三者が遺言執行をする場合は、このような感情を挟むことなく、遺言者の意思通りに遺言執行する義務があるからです。
父郎の視点②遺言代用信託を利用する。
父郎 「そうはいっても可愛い息子たち。本当は私の死後も資金的に面倒をみてあげたいのだが…。」
この様に、一度に財産を与えると、浪費してしまうような子供たちに、定期的に相続財産を与えていく方法があります。
それが遺言代用信託です。
信託を活用した新しい制度で、ここで説明すると長くなってしまうので、別の機会にご説明しますが、続きが気になるようでしたら、弊所までご連絡ください。
(文責:角谷)
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