事例紹介

不動産2023.05.2.2023年4月1日施行の改正民法について(共有関係)~前編~

2023年4月からの民法改正

2023年4月から民法が改正されます。今回の改正は、近年問題となっている所有者不明土地の問題の解決や土地利用の円滑化を目的として、不動産登記法等の改正とともに行われました。

本稿では改正民法の共有関係の規定にスポットを当て、解説をしていきます。

所有者不明土地の処分に関する改定

いままでの民法では相続登記が義務化されていませんでした。
そのため、相続等をきっかけとして所有者不明となる土地が、現在多数存在しています。
過去の所有者の相続人を戸籍資料から辿っていけば、所有者不明土地について現在の所有者(共有者)を特定できますが、多くの所有者不明土地は、相続人が多数であったり相続人の一部の所在が不明であったりして、所有者(共有者)の特定が困難または不可能となっている状態です。
そのため、所有者不明土地の管理・処分に大きな支障が生じています。

そこで、所在等が不明な共有者がいる場合でも共有地を円滑かつ適正に利用できるようにするため、今回の改正では、以下2つの見直し等が行われました。

①共有物の変更・管理に関する規律の見直し

②共有関係を解消しやすくする仕組みの創設 

このコラムではまずは前編として、①共有物の変更・管理に関する規律の見直しについてご説明します。

今回行われた共有物の変更・管理に関する規律の見直しは主に以下5点です。

 

(1)共有物の変更・管理の内容に関する規律の見直し 

 

いままでの民法では、共有物に軽微な変更を加える場合であっても共有者全員の同意を得なければならず、円滑な土地の利用・管理が阻害されていました。
そこで今回の改正では、共有物に変更を加える行為であっても、形状又は効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更)については、持分の価格の過半数で決定できることが定められました。(民法251条1項、252条1項)

なお「形状の変更」とは、その外観・構造等を変更することをいい、「効用の変更」とは、その機能や用途を変更することをいいます。
例えば、砂利道のアスファルト舗装や、建物の外壁・屋上防水等の大規模修繕工事は、基本的に共有物の形状又は効用の著しい変更を伴わないものに当たると考えられます。

また賃借権等の設定については、全員同意が必要な「長期間の賃貸借」の判断基準が明確でなかったことから、実務上全員同意を得ることが多く、円滑な土地利用を阻害していました。
そこで今回の改正では、持分の過半数で決定することができる、短期の賃借権等の範囲が明確にされました。
(民法252条4項)持分の過半数で決定できる短期の賃借権等の範囲は以下のとおりです。

 

1.樹木の植栽又は伐採を目的とする山林の賃借権等 →10年

2.1に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 →5年

3.建物の賃借権等 →3年

4.動産の賃借権等 →6か月

 

なお、借地借家法の適用のある賃借権の設定は、約定された期間内での終了が確保されないため、原則として基本的に共有者全員の同意がなければ無効となります。
ただし、一時使用目的(借地借家法25条、40条)や存続期間が3年以内の定期建物賃貸借(借地借家法38条1項)については、契約において更新がないことなどを明記し、所定の期間内に賃貸借が終了することを明確にした場合、持分の価格の過半数の決定で設定することができます。

 

(2)賛否を明らかにしない共有者がいる場合の管理に関するルールの合理化

 

いままでの民法では、共有物の管理に関心を持たず、連絡をとっても明確な返答をしない共有者がいる場合には、共有物の管理が困難となる問題がありました。
そこで今回の改正では、賛否を明らかにしない共有者がいる場合に、裁判所の決定を得て、その共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定できる制度が創設されました。(民法252条2項2号)

なおこの制度は、変更行為や賛否を明らかにしない共有者が共有持分を失うことになる行為(抵当権の設定等)には利用できません。

 

(3) 所在等不明共有者がいる場合の変更・管理に関するルールの合理化

 

いままでの民法では、所在等不明共有者(必要な調査を尽くしても氏名等や所在が不明な共有者)がいる場合には、その人の同意を得ることができないため、共有物に変更を加えることができず、また、その他の共有者の持分が過半数に及ばないケースなどでは、管理についての決定もできませんでした。
そこで、今回の改正により、所在等不明共有者がいる場合には、裁判所の決定を得て、 当該共有者以外の共有者全員の同意により共有物に変更を加えること・当該共有者以外の共有者の持分の過半数により管理に関する事項を決定することができる制度が創設されました。(民法251条2項、252条2項1号)

なおこの制度も、所在等不明共有者が共有持分を失うことになる行為には利用できません。

 

(4) 共有物の管理者制度の創設

 

いままでの民法では、共有物の管理者に関する明文規定がなく、選任の要件や権限の内容が明らかではありませんでした。
そこで今回の改正で、共有物の管理者制度が創設されました。
共有物の管理者の選任・解任は、共有物の管理のルールに従い、共有者の持分の価格の過半数で決定されます。(民法252条1項)共有者以外の者を管理者とすることも可能です。
管理者は、個々の行為について共有者の過半数の同意を得ることなく管理に関する行為(軽微変更を含む)をすることができますが、軽微でない変更を加える場合には、共有者全員の同意を得なければなりません。(民法252条の2第1項)

 

なお、所在等不明共有者がいる場合には、管理者の申立てにより裁判所の決定を得た上で、当該共有者以外の共有者の同意を得て、変更を加えることができます。(民法252条の2第2項)

 

また、共有者が共有物の管理に関する事項を決定した場合には、これに従って職務を行わなければなりません。(民法252条の2第3項、4項)

 

決定に違反して行った管理者の行為は、共有者に対しては効力がありませんが、決定に反することを知らない第三者に対しては無効を対抗できません。(民法252条の2第4項)

 

※無効を対抗できない=決定に反することを知らない第三者との間では、管理者の行為は有効なものとして取り扱われます。

 

(5) 共有物を使用する共有者の義務に関する規律の整備

 

いままでの民法では、共有物を使用する共有者がいる場合に、その共有者の同意がなくても持分の価格の過半数で共有物の管理に関する事項を決定できるかが明確でなく、無断で共有物を使用している共有者がいる場合には、他の共有者が共有物を使用することは事実上困難でした。
そこで今回の改正で、共有物を使用する共有者がいても、持分の過半数で管理に関する事項を決定できることが明記されました。(民法252条1項後段)

これにより共有物を使用する共有者がいる場合でも、持分の過半数の同意でそれ以外の共有者に使用させることを決定することも可能となります。
ただし、管理に関する事項の決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その共有者の承諾を得なければなりません。(民法252条3項)。

またいままでの民法では、共有物を使用する者が他の共有者に対してどのような義務を負うかについての規定はありませんでした。
そこで今回の改正で、共有物を使用する共有者は、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を支払う義務を負うとする規定が設けられました(ただし、共有者間において無償とするなどの合意があれば、支払う必要はありません)。(民法249条2項)

 

さらに、共有者は善良な管理者の注意をもって共有物を使用する義務を負うことも明記されました。(民法249条3項)

 

この結果、共有物を使用する共有者が自己の責めに帰すべき事由によって共有物を失ったり壊したりした場合、他の共有者に対し、善管注意義務違反等を理由とした損害賠償義務を負います。

 

以上、①共有物の変更・管理に関する規律の見直しについてご説明しました。
後編は「②共有関係を解消しやすくする仕組みの創設」についてご説明しますので、そちらも合わせてご一読いただけると幸いです。

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