事例紹介

事例紹介2021.06.7.相続放棄の熟慮期間延長の特例について

はじめに

皆様は、「相続放棄をすることができる期間」に制限があるのはご存知でしょうか。

 

そもそも相続放棄とは、相続人が被相続人の死亡後に、被相続人が有していた正の財産(=お金や不動産などの価値のある財産)と負の財産(=債務、つまり借金などのマイナスの財産)の一切について、相続できる権利を放棄する(=捨てる)ことができる制度です。

 

相続開始後、相続人が裁判所に申立てを行うことで相続放棄をすることができます。

 

たとえば、被相続人が財産よりも借金を多く残して亡くなられた場合などは、相続人は債務を相続し借金を返済する義務を負ってしまうことになるため、相続放棄をする方がほとんどです。

 (※詳細につきましては、弊所のコラムバックナンバーをご参照ください。)

 

 

相続放棄が出来る期間

一般的に、「相続放棄をすることができる期間」は、相続人が「自己のために相続の開始があったこと(=被相続人が死亡したこと)を知った時」から起算して「三か月」とされています。(民法第915条1項)

 

この期間を、「熟慮期間」と呼びます。

 

ただ、あくまでもこの「相続の開始があったことを知った時」というのは原則にすぎず、

被相続人と相続人の関係性や外形的な財産の状況によっても三か月の起算点は変動します。

 

判例として有名なのは、「3か月以内に相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の期間は、相続人が相続財産の全部もしくは一部の存在を認識した時または通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当である。」という最高裁昭和59年4月27日判決の見解です。

 

熟慮機関の特例

ところが、上記のような親族内の関係性や財産状況というごく個人的な事情以外にも、熟慮期間について調整が加えられる場合があります。

 

それは、「災害発生時」です。

 

たとえば「東日本大震災」などの未曽有の大災害時には、被災された全ての方に対して一律に熟慮期間が延長される特例法が作られ、熟慮期間が約8か月延長されました。

東日本大震災のように大規模な災害でなくとも、一部地域での大水害や台風被害の発生時にもこのような特例法や措置が取られることがあります。

コロナと熟慮機関

今般、世情に大きな影響を与えた「新型コロナウイルスの蔓延」も例外ではありません。

緊急事態宣言下、裁判所の書記官及び裁判官の登庁は停止され、裁判の期日言渡しは大幅に遅延していました。

そのような状況を鑑み、現在、新型コロナウイルスの影響を原因とした相続放棄の熟慮期間の延長を認める措置が取られています。

 

ただし、東日本大震災時とは異なり、特例法の制定はなくあくまでも裁判所内の措置にとどまるのみですので、延長の措置を受けるには熟慮期間内に「延長の申立て」を行うことが必須です。

新型コロナウイルスの影響で、ご家族のご逝去後のお手続きや整理が滞ってしまっている方は、「考える時間」を作るためにも、まずこの延長申立てを検討してみる価値はあります。

 

三か月以内にきちんと決めるために

三か月というのは長いようであっという間です。

何もせず熟慮期間が過ぎてしまうと、取り返しのつかない事態に陥る可能性もあります。

相続放棄をするか、それとも相続を承認するか、それを決めるためにもまずは被相続人の死亡後の早急な財産調査や親族関係、遺言書の確認が肝要です。

ご不安な方は、ご相続の際には一度専門家へご相談されることをおすすめいたします。

 

弊所では、感染拡大防止への配慮からオンラインにてご面談も承っておりますので、お気軽にご相談いただければと存じます。

 

(文責 大石)

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