事例紹介

事例紹介2020.10.22.親子間贈与と特別受益のケーススタディ② 

前回の記事はこちら⇒親子間贈与と特別受益のケーススタディ①

事例3  特別受益に当たる場合と当たらない場合の混合型事例(「生計の資本」としての贈与の意味)   


1回の金額は少額だが、それが長期間にわたり合計が多額になった場合はどう考えたらいいのでしょうか。これも親族間の贈与の場合です。

 

遺産分割協議で、相続人全員が了解すればいいでしょうが、積り積もった贈与の金額が何百万円にもなれば、特別受益を主張する相続人が出てきても不思議ではありません。

遺産分割協議でまとまらなければ、家庭裁判所の調停や審判の場に移ります。個々の案件によって多少の違いはあるでしょうが、ご参考までに、その判断の基準の目安となる事例を紹介します。平成21年1月の東京家庭裁判所の審判例です。

 

「平成4年〇月から平成11年〇月までの間に、一月に2万円から25万円の送金がなされている。

〇年〇月5万円、○月6万円・・は、いずれも一月に10万円未満であるから、親族間の扶養的金銭援助にとどまり、生計資本としての贈与とは直ちに認められないと思慮するが、その余の送金は○年〇月22万円、○月25万円・・など、いずれも一月に10万円以上の送金がなされている。・・これらの一月に10万円を超える送金は生計資本としての贈与であり、いずれも相手方の特別受益と認められる。」

 

要は、少額の贈与が長期間によって多数回なされ、その総額が多額になった場合は、各贈与時において、親族間の扶養的金銭援助と考えられる一定金額(例えば10万円)を推計して、その一定金額以下は少額であるので持ち戻しの対象としない。

ただ、一定金額を超える場合には、扶養義務の範囲を超えるものとしてその合計額を持戻しの対象と考えるというものです。遺産分割協議の場で参考になり得るかもしれない事例として紹介しました。

 

 

事例4  代襲相続人の受益 


夫Aには、妻Bと2人の子C(兄)・D(弟)がいます。Aが死亡し、相続財産は2000万円です。BとCはAより先に死亡しています。

Cには子供が1人(X)いるので、相続人は、DとXの2人です。Xは、Aの生前、マンション購入のためAから1000万円の援助を受けています。この1000万円は特別受益に当たるでしょうか。

 

XはAの孫にあたります。XがAから1000万円の援助を受けたときに、Cが存命であったかどうかで結論が異なります。

 

① 兄Cが存命のときに贈与された場合

特別受益は、「相続人」のあいだの不公平を是正するための制度ですので、Cが存命であれば、Cの子XはAの相続人には当たらないことになります。

従って、特別受益には当たらず、持ち戻しもなく、遺産分割することになります。

 

② 兄Cが亡くなった後に贈与された場合

Cが亡くなったあとに、1000万円の贈与をXがAから受けたのであれば、Xは代襲相続人ですので、特別利益を受けたことになり持ち戻すことになります。

 

 

事例5  特別受益に当たらない事例 - 相続放棄の落とし穴


夫Aには、妻Bと2人の子C・Dがいます。Cは、10年前に住宅購入資金として、父Aから2000万円の援助を受けていました。

Aが死亡し、遺産総額は300万円です。Cは、家庭裁判所への手続きを経てAの相続を放棄しました。Cは持ち戻しをしなければいけないのでしょうか。

 

そもそも、特別受益の持ち戻しは、相続人間の不公平是正のためのものですから、援助を受けた人が相続人でない場合は適用がありません。

ところで、Cは相続人でしょうか? Cが相続放棄をしなければ相続人です。しかし、このケースのように、Cが相続放棄をした場合は、放棄者Cは当初から相続人でなかったものと「みなす」ことになるのです。

従って、Cは相続人ではないので、特別利益や持ち戻しの対象外になってしまうのです。意外な盲点かもしれません。

 

終わりに


生前贈与と特別受益の問題は、親族間の感情も、いざという時の立証も難しいものがあります。

だからといって生前から証拠集めなどをするよりも、親御さんの愛情を大切に、あくまで親御さんの財産なのだがら好きにしたらいい、というくらいの大らかな気持ちでいたいものです。

文責:鈴木、庄田

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