事例紹介2023.04.17.相続放棄をした者による相続財産の管理 ~新民法940条~
相続放棄とは
相続放棄とは、故人のプラスの財産もマイナスの財産も全ての相続する権利を放棄することです。
相続放棄をすれば遺産についてはすべて免責されると認識されますが、不動産等については必ずしも免責される訳ではなく、管理責任は問われ続けることになります。
【現行民法940条1項】
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
上記の通り、現行法では「第一順位の相続人Aは、第二順位の相続人Bが相続財産の管理を始めることができるまでは管理を継続しなければならない」と定めているだけです。
しかし、法定相続人の全員が相続放棄をして、次順位の相続人が存在しない場合に、いつまで管理継続責任を負い続けるのかは明らかではありません。
管理継続義務の要件や内容が明らかでないため、相続放棄をしたのに過剰な負担を強いられるケースもあると指摘されていました。
改正内容
ではどのような改正が行われたのでしょうか。
【新民法940条1項】
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
現行法は、相続の放棄をした者は一律に管理責任を継続して負うものと規定しています。
改正法では「相続財産に属する財産を現に占有している相続放棄者」だけ責任を継続して負わせることにしています。そして、占有を開始した以上、その財産を他の相続人や相続財産清算人に引き渡すまでは保存する義務を負わせるものです。
具体例
例えば、第一順位の相続人Aが相続財産である土地を占有していたが、相続放棄をした後、相続人となった第二順位の相続人Bが続いて相続放棄をしたという事例において、誰がこの不動産の責任を負うのか。
この場合、「相続財産に属する財産を占有している相続放棄者」はAですので、Aが責任を継続して負い、Bは管理したことのない土地についての責任は一切負わないことになります。
管理義務から保存義務へ
また、改正法では「その財産を保存しなければならない」としています。
「管理義務」であったものから「保存義務」と変更になりました。
改正法の中で「相続人又は相続財産清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間」としています。これらの者に引き渡せば、それ以後は相続人又は相続財産清算人が保存義務を継続することが出来るので、引き渡しのときに保存義務が終了し、改正により、より明確化されました。
以上が相続放棄をした者の相続財産管理の改正内容となります。
文責:松井
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