事例紹介2022.05.16.相続人の一人に遺産の分配を任せた場合の遺言の効力
民法第908条
被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
さて、民法はこのように定めていますが、第三者とは一体誰を指すのでしょうか。平成17年10月20日東京地方裁判所(ワ)14699を参考に、考えてみたいと思います。
モデルケース
1 被相続人山田太郎は、平成20年2月2日、「私の遺産の分配は長男山田一郎に一任する」という趣旨の自筆証書遺言を作成した。
2 被相続人山田太郎は平成30年3月3日死亡した。
3 山田太郎の相続人は、山田一郎、山田花子、山田京子の3名である。
4 山田一郎は自分の配分を多くして遺産分割をしようと画策し、喧嘩になった。
5 山田花子は遺産の分配を共同相続人の一人に一任する本件遺言書は民法908条に反し、無効であるとして提訴した。
判決の内容(抜粋)
民法908条より、被相続人は遺産の分割方法を定めることが出来るが、遺産の分配補法を第三者に委託する場合には委託を受けた第三者は公正に共同相続人間に遺産を分配することが期待されている。
しかるに、委託を受けたものが共同相続人の一人である場合は自身も遺産の分配を受ける立場に立つから、他の共同相続人に対する公正な遺産の分配を期待できず、民法908条の趣旨に反する。
よって本件のように遺産の分配を共同相続人の一人に委任する内容の遺言は無効である。
考察
例えば、遺言公正証書の証人欠格者は法律で列記されているので分かりやすいですが(未成年者、推定相続人等々)、民法908条では「第三者」とされています。
共同相続人は当然、一番の利害関係人ですので、遺産分割の方法を委ねる第三者には当たらないとする判例は当然と思われます。
問題は、グレーゾーンにいる人間(受遺者、兄弟、遺言執行者)に対して遺産分割の方法を委ねた場合にはどうなるのかということですが、更なる判例の蓄積が待たれるところです。
基本的には、無効になる可能性があるので避けた方が無難でしょう。しかしそうなると、全くの第三者にしか遺産分割の方法を委ねられないということになり、専門家等に頼むしかないことになります。
近親者に分配を委ねたいという気持ちはごく自然なものですので、そのバランスが難しいところですが、遺言という厳格な行為においては、多少の不自由は致し方ないのかもしれません。
(文責:庄田)
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