事例紹介

不動産2024.12.1.敷地権が賃借権であった場合の承諾 ~共有者間の持分譲渡の場合も賃貸人の承諾は必要なのか?~

はじめに

今回は、敷地権付き区分建物の共有者間で持分譲渡を行おうとしたときに、敷地権が賃借権であったら賃貸人の承諾は登記に必須であるのか、といった論点をお話しいたします。わりとマニアックな話である気もいたしますが、状況的にはそうなくもないようなケースかと思います。普段考えるようなことでもありませんので、今後同じようなケースでお困りになる方のお役に立てるよう、私の経験談をお伝えしようと思います。

敷地権とは

まずは用語の確認からはじめます。マンションのように、1棟の建物に独立した部屋が複数存在する建物を、区分建物といいます。そして、その敷地が建物と一体のものとして登記されている場合、それを区分建物の敷地権といいます。敷地権となっているか否かは、法務局から登記簿謄本を取得する等の方法により、登記を確認することでわかります。敷地権が設定されている場合は、その区分建物には「敷地権の表示」が記載されていますし、敷地である土地には敷地権となった旨の記載があります。敷地権には所有権、賃借権、地上権といった種類があります。敷地権がいずれの権利なのかは、その敷地権付き区分建物の権利を譲渡する際に問題になってきます。

賃借権の場合の承諾

敷地権が所有権もしくは地上権の場合は、譲渡に際して土地の所有者からの承諾は不要です。賃借権の場合は、原則として賃貸人の承諾が必要になりますが、特約が付されていて実際には承諾が不要となるケースも多くあります。今回登記をご依頼いただいた区分建物は、地上権に設定されている賃借権が敷地権化されていて、特約の記載はありませんでした。よくある所有権に設定された賃借権ではなく、地上権に設定されたものであったため、あらためて条文を確認したところ、民法612条1項は「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡」すことができないと定めているため、賃貸人が所有者であれ、地上権者であれ、やはり原則は承諾が必要であると解釈しました。

共有者間の場合は?

ただし、今回のご依頼は、第三者への譲渡ではなく共有者間の譲渡でありました。前述の民法の条文ですと、ただ「譲り渡」すとなっていますが、借地借家法第19条には「借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において」とあります。ここから、この条文はあくまで「第三者への譲渡」を前提としており、共有者間の譲渡は含まれないため、賃貸人である地上権者の承諾は不要であると思料し、それで登記が可能か法務局に照会をしました。
結論、本件においては承諾書なしで登記は可能との回答が得られました。ただ、今回実際には、照会前に事前に地上権者であった法人に共有者間の譲渡の場合になんらかの手続きが必要であるかを弊所が直接確認しており、地上権者からは共有者間の場合は不要である旨の確認がとれていたことが、判断に大きく影響していたようです。登記官は、条文の解釈について判断するというより、登記に伴って不利益が生じないかという点を重視するため、今回は地上権者が問題ないと言っているのであれば、法務局として承諾書を求めることまではしません、といった趣旨の回答でした。厳密に言えば、共有者間の譲渡でも、資力の問題等で地上権者に不利益が生じる可能性はないとはいえませんので、その点を気にされていたように思います。

おわりに

頻繁にある事例とはいえませんが、みなさまのご参考になれば幸いです。特殊なケースですので、実際に登記を申請される場合は、弊所をはじめ、司法書士にご相談されることをお勧めいたします。

(文責:坂田)


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