事例紹介

事例紹介2024.07.1.特殊型の清算型遺贈と遺言執行者の権限

清算型遺贈とは

財産に不動産が含まれている場合に、「遺言執行者は不動産を売却してその代金中より負債を支払い、残額を受遺者に遺贈する」という内容の遺贈をすることができます。これを清算型遺贈といいます。

清算型遺贈の場合、遺言執行者は不動産を売却する必要がありますが、この場合の名義変更の登記は、不動産登記のルールとして①遺言者から相続人全員への法定相続分による相続登記、②相続人から買主への売買登記という順序で入れる必要があります(昭45.10.5民事甲4160号回答)。

そして、この①②の登記は、形式上相続人の名義を経由するものの、いずれも遺言執行者が相続人の関与なくして申請することができるものとされています(昭52.2.5民三773号通達)。

事例

最近、この清算型遺贈の特殊型ともいえる遺贈の相談を受け、法務局に照会した事案がありました。法定相続人として子が2人いる遺言者が、「遺言者の不動産につき、子Aのみに相続させた上で、遺言執行者がその不動産を売却してその代金中より負債を支払い、残額を受遺者B団体に遺贈する。」という内容の遺言書を作りたいという相談です。

スタンダードな清算型遺贈との違いは、先に述べた①「相続人全員への法定相続分」による相続登記ではなく、「法定相続人のうちの任意の一人」への相続登記を経た上で、②当該相続人から買主への売買登記を入れることになるという点です。相続人全員の名義を経ることを避けたい事情があったためにこのような相談に至ったようですが、この場合に問題となるのは、①②の登記をいずれも遺言執行者の権限で申請することができるのか?という点です。

おそらく難しいのでは…という予想のもと、法務局に上記の点について照会したところ、次のような回答でした。

回答:本件の内容の遺言書に基づいて登記を申請する場合、遺言執行者の権限の範囲は、①法定相続人のうちの一人への相続登記を申請するまでのものに限られ、②の買主への売買登記を申請することはできない。

理由:本件の遺言の「遺言者の不動産につき、子Aのみに相続させた上で」の部分は民法1014条2項の特定財産承継遺言に該当し、遺言執行者は相続人のために相続登記を申請することができ、これをもって遺言執行者の権限は履行されたことになる。本件の場合、買主への売買登記は、遺言執行者の権利義務(民法1012条1項)の範囲外となる。

予想通りでした。ちょっとした違いに思えるかもしれませんが、法的な効力に及ぼす影響を確認せずに遺言書を作ってしまうと、遺言執行段階で、遺言者の意図していた通りの執行業務を行なえないという落とし穴が生じ得るため、注意する必要があります。

おわりに

遺言書の作成は、ぜひ専門家である私ども司法書士法人神楽坂法務合同事務所へご相談ください。

 

(文責:高野)

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