事例紹介

事例紹介2023.10.31.未成年者の相続手続

被相続人が若くして亡くなられた場合、相続人の中に未成年者が含まれていることがあります。またご高齢の方の相続であっても、未成年者を養子にしている場合や、代襲相続により未成年者が相続人になることもあります。

未成年者であっても相続人ですので、権利義務を承継します。しかし、未成年者は「制限行為能力者」(民法5条)であるため、単独で法律行為をすることができません。

今回は相続人の中に未成年者がいる場合の相続手続について解説します。

1.未成年者がいる場合の遺産分割協議

遺産分割協議は相続人間で行う「法律行為」ですので、未成年者単独で協議に参加することはできません。未成年者の代わりに、法定代理人となる人が遺産分割協議に参加します。

未成年者の法定代理人とは、基本的には親権者ですが、親権者がいない場合は未成年後見人です。

なお、法定代理人が未成年者の代理人として遺産分割協議に参加するのではなく、未成年者自身が遺産分割協議に参加し、法定代理人がそれに同意を与えるという方法も可能です。

ただし、親権者が法定代理人となることで「利益相反」関係が生じる場合、親権者は法定代理人になることができません。

「利益相反」とは、一般的には、一方にとっては利益であるもののに他方にとっては不利益になってしまうような行為のことを指します。

未成年者の相続においては、主に次の2つが考えられます。

①未成年者と親権者がどちらも相続人になる場合

例えば父親が亡くなり、その妻と未成年の子が相続人となるケースです。妻は未成年の子からみれば母親(つまり親権者)になります。この場合で妻が未成年の子の法定代理人になると、妻は相続人としての立場と未成年者の代理人としての立場を持ち、ひとりで遺産分割を決めてしまえることになります。これは妻にとっては利益、子にとっては不利益となりえますので、「利益相反」関係が生じます。

②未成年の子が複数いる場合

親権者は未成年の子全員の法定代理人ですが、そうすると、親権者ひとりの裁量で未成年の子たちの相続分が決めてしまえることになります。これも、例えば親権者に気に入られている未成年者にとっては利益、他の未成年者にとっては不利益となりえますので、「利益相反」の関係といえます。

利益相反関係が生じた場合、親権者は代理することはできません。(②のケースでは片方の代理しかできません。)そこで、利益相反関係を解消する必要があります。

よくある方法として、親権者以外に、未成年者の子を代理する人を選任する方法があります。

このような立場の人を「特別代理人」といい、家庭裁判所に特別代理人選任申立てをして裁判所に選任してもらいます。特別代理人が選任された場合、未成年者の特別代理人が、その他の相続人と遺産分割協議をします。

また①のケースですと、母親が相続放棄をすれば自分自身は相続人でなくなるため、子の親権者の立場としてだけ遺産分割協議の参加するということも可能です。

2.不動産登記

未成年者が不動産を相続するとなった場合、その不動産の名義を未成年者にするには、所有権移転登記(相続登記)をしなければなりません。

登記申請手続は、契約や遺産分割協議と違って、私法上の法律行為(民法が直接適用されるような行為)ではなく、公法上の行為(行政機関に対する手続)です。

そのため、私法上の法律行為を制限した民法の規定とは異なるルールが適用されます。

未成年者であっても意思能力さえあれば登記申請が可能とされていますので、未成年者が自分自身で登記申請をすることが可能です。

もちろん、法定代理人がいる場合、法定代理人が代理して申請することも可能です。

なお、特別代理人が選任されて遺産分割協議が行われ、その結果として未成年者が不動産を取得した場合、その相続登記の申請は、未成年者、親権者、特別代理人のいずれからしてもよいとされています。

3.その他の相続手続

未成年者が金融資産を相続した場合、預貯金や有価証券等の相続手続は、全て金融機関との契約になります。これは行政機関の手続ではなく、民間企業相手の手続で、民法のルールがそのまま適用されますので、未成年者が単独で行うことはできません。法定代理人の同意を得るか、法定代理人が代わりに手続を行うかのいずれかの方法による必要があります。

4.未成年者の相続放棄

相続放棄も法律行為のため、未成年者が相続放棄をするには、遺産分割協議と同様、法定代理人の同意を得るか、法定代理人が未成年者を代理してする必要があります。

なお、親権者が共同相続人となっている場合、未成年者に代わって未成年者の相続放棄をして、自身の相続分を増加させることは、利益相反行為となります。

5.最後に

相続人の中に未成年者がいる場合、通常とは異なる手続が必要になることがあります。特別代理人の選任等、裁判所の手続が必要になる場合もありますので、お困りの際は専門家にご相談いただくことをお勧めします。

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