事例紹介2020.10.1.親子間贈与と特別受益のケーススタディ①
親から子への資金贈与(生前贈与)と特別受益
一般に、親は子供の成長が楽しみです。特に子供が成人になったあとでもその気持ちはあまり変わらないでしょう。子供が社会人になったあと、さまざまな節目で、お金が必要になります。それは、結婚であったり、住宅を購入する時であったりします。
その時、親としては、子供に金銭的援助をしたいと考え子供もそれはありがたいと思うのが普通かもしれません。その時の、援助の金額は数百万円から、場合によっては、一千万円程度になることもあるでしょう。親子間贈与で、いわゆる生前贈与と呼ばれるものです。
ただ、子供が1人ならいいでしょうが、子供が2人以上いる場合は、1人だけに大きな金額を贈与すると、親が死亡した場合に、他の1人と相続財産の分け前で揉めることが考えられます。その時の相続財産の追加修正として考えられるのが、特別受益です。
共同相続人のなかに、被相続人から特別受益を受けた人がいる場合は、次のような対応になります。
① まず、この贈与された特別受益を相続財産に加算して「みなし相続財産」としたうえで、各共同相続人の相続分を確定します。
② そのうえで、特別受益を受けた相続人についてその特別受益額を相続分から控除し、残額をもってその人の具体的相続分とするのです。
ここでは、いくつかの事例で、特別受益に当たるのか、当たらないのかを、家庭裁判所の審判例も含めて見てみましょう。
事例1.特別受益に当たる事例
夫Aには、妻Bと2人の子C・Dがいました。Aが死亡して、B・C・Dは銀行預金8000万円を共同相続しました。ただ、Cは以前、父Aから生計の資本としてマイホーム資金2000万円の贈与を受けていたとします。遺言書はありません。遺産分割の協議の段階で、もし、法定相続どおりの分配で相続人全員が合意すれば、妻が1/2の4000万円で、子2人はそれぞれ1/4の2000万円づつ分けることになります。
ところが、子Dがこう主張します。
「Cが生前贈与を受けたマイホーム資金を考慮しないで相続を認めると、Cの二重取りになって不公平ではないのか。」
① CがDの主張を認めれば、2000万円は特別受益となり、銀行預金8000万円とあわせた1億円が相続財産と見なされます。結果として、Cの法定相続分(1/4 の2500万円)から生前贈与の金額2000万円を控除した残額500万円がCの相続分になります。つまり、各相続人の取り分は、妻Bが5000万円、Cが500万円、Dが2500万円となります。
Dにしてみれば、Cの特別受益を主張し、Cが認めたことにより、Dの取り分が当初の2000万えんから500万円アップして2500万円になったのです。これで、無事に遺産分割協議書も作成できます。特別受益は主張が出発点です。
しかし。
② もし、Cが2000万円の特別受益を認めなかったらどうでしょう。遺産分割協議書は一人でも反対する相続人がいれば作成できません。その際は、家庭裁判所の調停の場に持ち越されるでしょう。
問題は、Cが、「そんなことは無い」と「しらを切った場合」です。立証責任は、主張者であるDにあります。特別受益と認められるかどうかで大切なのは、金銭のやり取りを示す「物的証拠」の存在です。住宅資金であれば、援助した親の通帳などに記録が残っているかもしれません。争点は父親Aの通帳の払戻しの事実のみを持って、「生計の資本としての贈与」と主張できるかという点です。
相続人である子Cが、「父Aの指示で払戻したのであって、その金は、父に渡した」と言っている場合は、贈与の合意を認定するのはかなり困難であると思われます。ただ、払戻しと近接した時期に、Cの口座に同額が入金されているなどの場合は、贈与が認められる可能性が出てくるでしょう。
実際には証拠がないケースや立証が不十分なケースも多いため、最近の裁判所の司法統計によれば、特別受益を主張した場合でも1割程度の件数しか認められていません。特別受益が認められる筈だと思っていても、贈与を受けた相続人自身が認めていないのなら、金銭の流れについての「しっかりした証拠」がなければ、期待はずれに終わる可能性が高いと考えるべきでしょう。
事例2 特別受益に当たらない事例
夫Aには、妻Bと2人の子C・Dがいます。Aが遺言書を残して死亡しました。ただ、この遺言書には、長女Cに預金2000万円遺贈するとしか書かれていませんでした。死亡時の相続財産は銀行預金4000万円だけです。
このように、長女CがAからこの遺贈を受けた場合は、Aが死亡の時において有した銀行預金4000万円に遺贈の金額2000万円を加えた金額(合計6000万円)を相続財産とみなすのでしょか?
回答は、加えません。
すなわち、Cへ遺贈された財産(預金2000万円)は、「被相続人Aが相続開始の時において有した財産(4000万円)」の中に含まれているので、遺贈の金額2000万円を加える必要はないのです。勘違いしやすいところなので気を付けたいところです。
親子間贈与と特別受益のケーススタディ②へ続きます。
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