事例紹介

相続・遺言2020.01.15.【続】行方不明の相続人がいる場合の遺産分割協議

前回の続きです。不在者財産管理人の職務と実際の遺産分割協議について見ていきます。

 

権限外行為許可の申立てと遺産分割協議

不在者財産管理人に選任されたら、ただちに不在者の代わりに遺産分割協議に参加できるかというと、そうではありません。

法律上、財産管理人は財産の管理行為(保存行為、利用行為、改良行為)しか認められていないからです。

遺産分割協議への参加はその範囲を超えているため「権限外行為許可」を家庭裁判所に申立て、許可を得る必要があります。

 

財産管理人の行為が法律的にどのような行為にあたるのかという判断は難しく、裁判所の許可なく権限外の行為をしてしまった…ということを防ぐためにも、専門家への相談をお勧めします。

 

権限外行為許可の申立には、遺産分割協議書案を添付します。

協議書作成の際の注意点としては、基本的に不在者の法定相続分を下回る遺産分割協議は認められないということです。

さらに、財産管理人の職務期間は前回説明した通り(※)ですので、遺産分割協議が終わったからと言って管理業務は終了しません。

(※①不在者の財産がなくなる ②不在者が死亡する又は失踪宣告がなされる ③所在が確認される)

 

つまり財産管理人は、遺産分割協議書が終わった後もずっと財産を預かり、管理していく必要があります。

 

 

 

帰来時弁済

これでは財産管理人が大変なので、一定の条件を満たす場合は「帰来時弁済」という遺産分割の方法を使って、遺産分割協議成立と同時に管理業務を終了させることができます。

 

①帰来の可能性が低い

②不在者に子がいない

③相続する財産が高額ではない

 

以上の条件に当てはまる場合、他の相続人に不在者の相続分を預かってもらい、

不在者には財産を何も取得させないという帰来時弁済型の遺産分割協議が可能です。

①~③の条件については、不在者の年齢や不在になった経緯、財産の総額などで事件ごとに判断されるようですので、当てはまらずとも帰来時弁済が認められる場合もあります。

いずれにせよ、事前に裁判所に確認することになります。

 

実際の協議書には、財産を全て他の相続人間で分配した上で、以下のような一文を追加します。

 

相続人 ○○ は、不在者 ○○ が帰来し、同人から請求があったときは、同人に対し、 金○○円 を支払う。

 

 

不在者が相続する金額は詳細に書かなくても、割合の記載で認められる場合もあります。

この一文を追加することで、遺産分割協議が成立した時点で不在者の財産はなくなり、管理業務は終了します。

不在者が将来戻ってきた場合は、代わりに財産を取得した相続人が協議書に記載された金額を不在者に支払います。

 

 

 

 

報告

裁判所に許可を得た内容での遺産分割協議書(相続人全員の署名押印があるもの)を作成したら、その写しを裁判所に提出します。

また、財産管理人は、財産の管理経過を裁判所に年一回は報告しなくてはいけません。

ただし、帰来時弁済となった場合は、遺産分割協議の成立時(職務の終了時)に一度だけ報告する場合が多いようです。

 

 

報酬

財産管理人は、裁判所に申立てをすれば不在者の財産から報酬を受け取ることができます。

この申立は任意ですので、親族を選任した場合は請求しないことも可能です。

 

不在者の財産が乏しい場合や、帰来時弁済となる場合は、不在者財産管理人の申立人が裁判所に予納金を納めることになります。

報酬を請求する際には、管理経過一覧表に収支をまとめ、裁判所に提出します。

経費の請求のため、管理にかかった費用の領収書やレシートも保管しておきます。

 

ちなみに細かい話ですが、報酬付与の印紙及び切手代は申立人である財産管理人の負担であるため、請求できないことになっています。

 

 

選任の取消

報酬を受け取ったら、裁判所から送られてくる終了報告及び報酬の受領証を返送し、最後に選任の取消の申立てをします。

「不在者財産管理人選任の取消処分」の申立てを行い、審判の謄本が裁判所より送られてきたら、財産管理人としての業務は全て終了です。

 

 

最後に

不在者財産管理人は、一般の方が就任して手続きを進めるとなると、かなりの時間と労力を要します。

行方不明の相続人がいる場合は、専門家へのご相談をご検討ください。

また、遺言書があれば、特定の相続人に財産を残すことが可能なので、今まで説明してきたような煩雑な手続きを踏むことなく遺産の分配が可能です。

弊所ではそのような遺言のご相談も承ることが可能ですので、気がかりなことがある場合でもお気軽にご相談ください。

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