事例紹介

登記2017.09.4.民事信託について②

前回に引き続き、

民事信託を勉強しようというコーナー。

今回は第2回目。

 

改正された信託法において、信託の設定方法が三つ明記されました。

 

信託法第2条第2項

①信託契約

②遺言信託

③信託宣言

 

このうち第③号が全く新しい信託の形態である自己信託を指しています。

 

このコーナーでは民事信託の戦略的活用という観点から、

第①号の信託契約を中心に勉強していきたいと思います。

 

 

必ずしも信託法の改正によって新設されたものではありませんが、信託についての重要機能が7つあります。

 

①条件付贈与機能

従来の信託の考え方においては、どうしても商事信託を中心に検討する傾向があったので、信託を「資産運用」と捉えられることが多かったとおもいますが、民事信託の本質は、委託者から受益者に対する「条件付贈与」です。

民事信託は、委託者が受益者に対し、委託者の所有する財産のうち、受託者に移転される形式的な「名義」以外の全部の実質的権利を移転するのが本質ですので、その意味で「贈与」の一類型となるのです。

ただし、民事信託には各種の「条件」が付いており、この点が単なる贈与とことなります。

最初の条件は、「場合によっては解除されることがある」ということです。

民事信託契約において、一定の解除条件をつけておけば、いったんは受益者に移転した権利が委託者に戻される可能性があるということです。逆に言えば、民事信託契約開始後の委託者に残されている最後の権利が「契約を解除して元にもどす権利」であるということです。

次の条件は、委託者の意思によって、当初受益者を自分自身、2次受益者を他者とすることによって、実質的に「死因贈与」とすることができることです。

 

②意思凍結機能

信託においては、委託者の意思が、状況の変化に関係なく、契約期間中は永久に変わることなく生かされ続けることになり、この機能を意思凍結機能といいます。

民法における委任や代理契約は、基本的に委任者が死亡した時点で契約が終了するのが原則となっているので、委任者死亡後にその意思を継続させることは極めて困難です。

遺言制度も、遺言者の意思が生かされるのは遺言者が死亡して遺言執行が終了する時点までの時限的なものであり、その後の財産の帰属は、単なる「希望」「要望」にすぎず、遺言者の意思が反映されるという法律的保証はありません。

しかし、信託はそうではなく、当初信託契約の委託者となった者の意思が「自分が死んだらAに、Aが死んだらBに」といった内容であるならば、途中に介在しているAの意思には関係なく、当初の意思通りにその財産は承継されます。

 

③物権の債権化機能

信託契約をなすことによって、委託者の所有権は「名義所有権」債権である「信託受益権」に分割されて、それぞれ別々に機能することになり、これを物権の債権化機能といいます。

 

④所有権名義集約機能

名義所有権を受託者が取得することから、例えば多数の当事者が1人の受託者に信託することによって、その名義所有権は一本化され、受託者による一括管理ができるようになることを、所有権名義集約機能といいます。

この機能によって、例えば不動産であれば合筆して有効利用が可能になったり、株式であれば議決権を一括行使することによって経営判断の迅速化を図ることが可能になります。

 

⑤財産分離機能

1人の人の財産の全部または一部を信託財産とすることにより、他の財産と完全に分離して管理することが可能となり、これを財産分離機能といいます。

1人の人が所有している財産を分別し、それぞれ将来の取得者を決める事ができるので、柔軟な財産管理方法となります。

 

⑥パス・スルー機能

税法上、信託は「無いもの」とみなされることになっており、これをパス・スルー機能といいます。

信託の本質が「委託者から受益者への贈与」であることから、いわゆる他益信託を組成した際には直ちに贈与税が課されるところ、自益信託であれば相続の段階に至るまで課税されないとか、不動産を信託しても譲渡所得税や不動産取得税が課されないというのは、そもそも信託が無かったとみる、このパス・スルー機能から導き出される結論になります。

委託者から受託者への名義移転は所有権移転とみなされないということなので、最終的に相続税や譲渡所得税の節約には一切なりません。

 

⑦倒産隔離機能

信託が組成された後は、仮に委託者・受託者・受益者のいずれかが破産や倒産をしたとしても、信託そのものは全く影響を受けることなく継続されることになっており、これを倒産隔離機能といいます。

これは信託契約の安全性を担保するには必要な機能ですが、とても強力な機能であるため、詐害信託と呼ばれる不正な目的をもった信託設定行為が行われてしまう要因ともなっています。

ただ、間違えられやすいこととして注意しておかなければならないのが、例えば信託された不動産に抵当権が付いている場合、信託と抵当権の設定時期に関係なく、当然に実行可能であるということです。

この部分を勘違いして、抵当権付不動産の信託に抵抗を示したり、主債務とは何の関係もない受託者に連帯保証を求めたりする債権者もいるので、信託設定が悪影響のないものであるということを説明してあげる必要があります。

 

 

 

難しい言葉が沢山でてきて疲れたので、今日はこんなところで。

 

See you next time!!

(文責:角谷)

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