事例紹介

相続・遺言2017.06.9.「相続未登記」の土地の活用

地方から人が減り地価の下落が続く中、所有者の居所や生死が判明しない、いわゆる 「所有者不明」の土地が、災害復旧や耕作放棄地の解消、空き家対策などを進める上で支障となっています。

このような状況の中、政府は、相続登記されないまま所有者がわからなくなっている土地を公的な事業に利用できるようにする制度づくりに着手したというニュースがありました。

 

所有者不明の土地、公的利用へ新制度着手 道路や公園に

 

政府は、相続登記されないまま所有者がわからなくなっている土地を、公的な事業に利用できるようにする制度づくりに着手した。「資産価値がない」などの理由で放置される不動産が増え、防災や都市計画の妨げになるケースが出てきているためだ。

安倍政権が近くまとめる「骨太の方針」に盛り込む。来年の通常国会への関連法案提出に向け、国土交通省や法務省が具体的な検討を進める。

不動産登記簿に相続登記がされないままの土地について、道路や公園の整備、再開発事業といった公的な目的のためなら、所有権をそのままにして利用できる仕組みをつくる。地方自治体が土地の「利用権」を設定できるようにすることなどを検討する。

道路などができた後に所有者が現れた場合に金銭補償をどうするのか、利用権の期間や公共目的の範囲をどう設定するのか、といった課題についても今後、詰めていく。”引用:朝日新聞

 

所有者が死亡し、相続登記されないまま相続人が死亡し、何代も経ていくうちに相続人の数が多くなって相続の手続きが進まなくなり、事実上塩漬け状態になっている土地が多く存在しています。東日本大震災の復興において、この相続未登記が問題となりました。被災地では、所有者が明治時代の人になっていた例もあり、所有者にたどりつくまでに膨大な行政コストがかかったそうです。

 

法務省の調査(全国10か所の地区(調査対象数約10万筆)で相続登記が未了となっているおそれのある土地の調査)によると、最後に所有権の登記がされてから50年以上経過しているものが大都市地域において6.6%,中小都市・中山間地域において26.6%となっていることが分かりました。中小都市・中山間地域においては、実に4分の1以上が50年以上登記されていないという事実には驚きました。

 

調査対象として自然人名義に係る所有権の個数:118,346

(参考:国、地方公共団体、会社法人等を入れた場合:152,232)

                 割合は累積値

  最後の登記から90年以上経過しているもの 最後の登記から70年以上経過しているもの 最後の登記から50年以上経過しているもの
大都市 0.4% 1.1% 6.6%
中小都市・中山間地域 7.0% 12.0% 26.6%

法務省: 不動産登記簿における相続登記未了土地調査についてより参照

 

 

「相続未登記」になる原因は以下のように考えられます。

 

一つ目は、自治体が土地所有者の移動や死亡状況を把握しきれないことに問題があります。現行の制度が自治体や国を超えた所有者の移動を十分に想定しておらず、土地所有者情報を追跡できないのです。

そもそも日本は、土地の所有・利用実態を把握するための情報基盤が十分とは言えません。 不動産登記簿、国土利用計画法に基づく売買届出、固定資産課税台帳、農地基本台帳など、目的別に各種台帳はあるものの、その内容や精度はさまざまで、国土の所有・利用に関する情報を国が 一元的に把握できる仕組みはないのです。不動産登記(権利登記)は任意であり、登記後に所有者が転 居しても住所変更の通知義務はありません。

また、現行制度では、死亡届の情報が当該自治体に通知される仕組みもありません。そのため、相続登記がおこなわれなければ、相続人からの申し出、納税通知書の返戻、または滞納といった事象がない限り、納税義務者の死亡事実を把握すること自体が難しいのです。さらに、所有者の死亡や転居後、住民票(除票)が保存期間(通常5年)を過ぎて、破棄処分されてしまった場合、相続人の調査も困難になる恐れがあります。

 

二つ目には人々の土地に関する意識の変化が考えられます。資産としての土地の保有や管理に対する関心は低くなり、金銭的、心理的な負担感が生じることもあるため、相続が発生しても相続人も引き受けたがらないのです。

また、相続人が地元に残っておらず「山林・田畑について所有する土地がどこにあるのかわからない」「過疎地で固定資産税の価値も低いうえ、所有者の子が地元に帰ることがますます少なくなり、地元の土地に対する愛着がなくなっていった」など土地に対する相続人の関心の低下も指摘されています。

 

今後、高齢化の進展による相続件数の増加や地方から都市への人口移動に伴う不在村者の増加などにより、こうした問題は地方を中心にさらに増加していくことでしょう。

こういった事情から増え続ける所有者不明の土地や空き家などが、震災復旧の足かせとなり、なかなか復旧が行われていない現状を打破するために、制度作りをどうすすめていくのか、今後の動きに注目したいと思います。

(文責:高橋)

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