事例紹介

終活2026.07.31.成年後見制度・遺言制度の改正~ 本人の意思を尊重し、デジタル時代に対応する相続・終活制度へ~

はじめに

令和8年6月、「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)及びその施行に伴う整備法(同第46号)が成立し、成年後見制度と遺言制度について大幅な見直しが行われることとなりました。高齢化に伴う認知症高齢者の増加により、本人の権利擁護と財産管理を支える成年後見制度の重要性は高まる一方、「一度利用すると途中でやめられない」「本人の意思が十分反映されない」といった課題が指摘されてきました。また遺言制度についても、デジタル化が進む社会に対応しきれていない面がありました。今回の改正は、これらの課題を解消し、本人の自己決定権をより尊重する制度への転換を図る大きな改革です。

成年後見制度は「必要なときだけ利用する制度」へ

現行の成年後見制度には「後見」「保佐」「補助」の三類型がありますが、特に後見制度は一度開始すると本人が亡くなるまで継続するケースが多く、必要以上に行為能力が制限されるという問題がありました。

今回の改正では、本人に必要な範囲の支援に限定する考え方が採用されます。特定の法律行為についてのみ権限を付与し、支援が不要になれば制度を終了することも可能となります。また、後見・保佐に代わって「補助」の制度へ一元化され、補助人選任時は本人の意思を尊重、意向の把握を義務化しています。例外的に、補助を開始した人が、事理弁識能力を欠く常況にあると認定されるときには、法定の重要な財産行為についていずれも取消可能とする「特定補助」の仕組みを利用することもできます。

さらに、本人との面会を怠るなど不適切な補助人については解任しやすくなるほか、補助人の報酬についても業務内容や実績が考慮されることが法律上明確化されます。

そのほか、死後事務に関する補助人の権限が拡充され、補助人が次の行為をすることが可能となります。

  1. 本人の火葬・埋葬の契約の締結

  2. 本人が死亡した当時の権限の範囲内での相続財産の保存に必要な行為。例えば施設利用料の支払いが代理でできる権限があれば、未払いの施設利用料を支払うことができます。

任意後見制度の利用促進

将来の認知症などに備えて契約を結ぶ任意後見制度についても見直しが行われます。

現行制度では任意後見監督人の選任が必須であり、費用負担や手続面が利用の障壁となっていました。改正後は、家庭裁判所が必要ないと判断した場合には監督人を選任せず、家庭裁判所が直接監督することが可能となります。

任意後見受任者が死亡した場合の対応(受任者が死亡した場合に備えて次の後見人を定める)や、本人以外の者による後見開始申立ての仕組み(公正証書によって指定した者で親族以外の者でも任意後見契約を発効させる手続きができる)も整備されます。これにより、本人が元気なうちに準備した任意後見契約を、より実効的に活用できる制度へと改善されます。

また、補助制度の利用を開始しても任意後見契約を続けることもできるようになります。補助人に対する代理権の範囲を適切に設定することで、権限の重複を避けるようにします。権限の重複の調整が必要な場合には、任意後見契約の一部を解除する規律も設けられます。

遺言制度のデジタル化と「保管証書遺言」の創設

今回の改正で特に注目されるのが、遺言制度のデジタル化です。

新たに創設される「保管証書遺言」は、パソコン等で作成した遺言データを法務局に提出し、法務局が保管する新しい遺言方式です。オンラインによる申請や、ウェブ会議を利用した手続きも可能とされており、遺言作成の利便性が大きく向上します。

この制度には、遺言書の紛失や改ざんを防止できるほか、相続開始後に遺言の存在が見つからないというリスクを軽減できるメリットがあります。また、法務局から相続人へ通知が行われる仕組みも設けられ、遺言の発見漏れ防止にもつながります。

さらに、保管証書遺言については家庭裁判所の検認手続が不要とされ、相続手続の迅速化も期待されています。

その他の遺言制度改正

今回の改正では、保管証書遺言以外にも重要な見直しが行われます。

まず、自筆証書遺言や公正証書遺言等における押印要件が廃止され、押印は任意となります。遺言書の加除その他の変更の際の押印要件も廃止されます。

また、死亡の危急時に作成する危急時遺言については、パソコン等で作成したデータを利用する新たな方式が導入されます。さらに、船舶遭難者遺言についても、映像や録音を活用した方法が認められる予定であり、デジタル技術を活用した遺言作成が大きく前進します。

加えて、高齢者施設等で遺言を作成する機会が増えている実情を踏まえ、証人となれない者(欠格事由)の範囲についても見直しが行われます。

おわりに

今回の法改正は、成年後見制度を「本人に必要な範囲で利用する制度」へ転換するとともに、遺言制度をデジタル社会に適応させる大規模な改革です。特に、本人の意思尊重を中心に据えた成年後見制度の見直しと、保管証書遺言の創設は、終活や相続実務に大きな影響を与えることになるでしょう。

施行までには一定の準備期間がありますが、今後、遺言や任意後見契約の活用方法も大きく変わる可能性があります。終活や相続対策を検討している方は、制度改正の内容を正しく理解し、自身や家族にとって最適な準備を進めていくことが重要になるでしょう。

(文責:高橋)

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