未分類2017.03.10.尊厳死を希望したら
尊厳死とは、病気や事故などで治癒の見込みのない末期状態の人が自分の意思で過剰な延命措置を中止し、人間としての尊厳を保ちつつ死に臨むことを言います。
「尊厳死宣言書」は尊厳死を希望するときに、本人が自らの意思で延命措置を差し控え、又は中止し「尊厳死を望む」という考えがあることを「意思表示する書面」のことです。「リビング・ウィル」とも呼ばれています。
日本では尊厳死に関する法律がないため、決まった書き方がありませんが、「尊厳死宣言書」には次の内容を記載します。
- 尊厳死希望の意思を表明する
痛みを和らげる処置以外は一切行わない旨を表明します。
- 家族が同意していることを記載する
宣言書を作っても家族が延命措置の停止に反対したら医師はそれを無視できません。あらかじめ家族とよく話し合い、いざそのときになって反対しないよう家族を説得しておく必要があります。医師に安心して延命治療を中止してもらえるよう、家族が同意していることを記載します。
- 家族や医療関係者に対する刑事及び民事責任の免責に言及する
治療にあたる医師の立場としては、回復の可能性がゼロでない限り、患者の治療をやめてしまうのは、医師としての倫理に反しますし、たとえ生命を保っているだけの患者に対しても死に直結する措置をとる行為は殺人罪に問われる恐れがあります。そういったことから必ずしも尊厳死が実現するとは限りません。そこで、家族や医療関係者が法的責任を問われないよう、刑事責任だけでなく民事責任も免責する記載をすることが必要です。
- 宣言内容の効力について記載する
この宣言書が心身共に健全なときに作成したこと、精神が健全な状態にあるときに本人が撤回しない限りその効力を持続するものであることを明らかにしておきます。
この文書があっても、これ自体は手紙などと同じ「私文書」にすぎませんのでその通りに実現される保証はありません。
そこで尊厳死を希望する場合には、元気なうちに尊厳死宣言書を「公正証書」として作成・保管することが大切となります。「尊厳死宣言書」を信頼性の高い公正証書で作成することで、家族や医師たちとのトラブルをさけ、来るべき時に備えておくことができます。
以下に日本公証人連合会のHPより引用した「尊厳死宣言公正証書」の例をご紹介します。
<尊厳死宣言公正証書>
本公証人は、尊厳死宣言者〇〇〇〇の嘱託により、平成〇〇年〇月〇日、その陳述内容が嘱託人の真意であることを確認の上、宣言に関する陳述の趣旨を録取し、この証書を作成する。
第1条 私〇〇〇〇は、私が将来病気に罹り、それが不治であり、かつ、死期が迫っている場合に備えて、私の家庭及び私の医療に携わっている方々に以下の要望を宣言します。
- 私の疾病が現在の医学では不治の状態に陥り既に死期が迫っていると担当医を含む2名以上の医師により診断された場合には、死期を延ばすためだけの延命措置は一切行わないでください。
- しかし、私の苦痛を和らげる処置は最大限実施してください。そのために、麻薬などの副作用により死亡時期が早まったとしてもかまいません。
第2条 この証書の作成に当たっては、あらかじめ私の家族である次の者の了解を得ております。
妻 〇〇〇〇 昭和 年 月 日生
長男 〇〇〇〇 平成 年 月 日生
長女 〇〇〇〇 平成 年 月 日生
私に前条記載の症状が発生したときは、医師も家族も私の意思に従い、私が人間として尊厳を保った安らかな死を迎えることができるようご配慮ください。
第3条 私のこの宣言による要望を忠実に果たして下さる方々に深く感謝申し上げます。そして、その方々が私の要望に従ってされた行為の一切の責任は、私自身にあります。警察、検察の関係者様におかれましては、私の家族や医師が私の意思に沿った行動を執ったことにより、これらの方々に対する犯罪捜査や訴追の対象とすることのないよう特にお願いします。
第4条 この宣言は、私の精神が健全な状態にあるときにしたものであります。したがって、私の精神が健全な状態にあるときにしたものであります。したがって、私の精神が健全な状態にあるときに私自身が撤回しない限り、その効力を持続するものであることを明らかにしておきます。
現在においても尊厳死はまだ社会的に浸透しておらず、まだまだ議論の余地はあります。尊厳死公正証書を作成するにあたり、法的・社会倫理的な観点を吟味しながら、本人の意思に従って措置した医師や家族が社会的に非難され、刑事・民事の責任を追及されるようなことにならないように十分な配慮が必要となります。
(文責:高橋)
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